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コラム 知財法学習者へのエール コラム 知財法学習者へのエール
知的財産法を学ぶ意義 明治大学法科大学院教授 高倉成男氏 明治大学法科大学院教授 高倉成男氏

知的財産法は、司法試験の選択科目(労働法、倒産法など8科目)の1つである。全受験生のうち知的財産法を選択する者の割合は、最近の平均で約14%である。もっとも知的財産法を選択して司法試験に合格した者が全て知財専門の弁護士になるわけではない。そもそも全員が合格できるわけでもない。企業や官庁への道を選ぶ者も少なくない。このような進路の多様性も考慮に入れ、どの学生にとっても役立つ授業となるように、私は主に次の3点に注意して知的財産法の授業を行っている。

第1に、規範の解釈にあたり、法目的又は高次の公益を考慮し、権利の保護と制限のバランスを考える。例えば、標準必須特許の所有者による権利行使は、どのような場合にどの程度制限し得るか、そしてその正当化理由は何かについて理論的に考える。

第2に、知的財産法の各法を隣接法、一般法、外国法と比較して理解する。例えば、特許権が絶対的である(他者の独自発明にも権利が及ぶ)のに対し、著作権が相対的である(他者の独自創作には権利が及ばない)ことに注目し、両者の法目的を対比的に理解する。

第3に、最近の法改正については、その政策的方向性をなるべく高い観点から俯瞰する。例えば、職務発明に関する特許法35条の一連の改正から、当事者による取決めを優先するという時代の潮流を読み取ることができる。

このように、知的財産法を単に静的なものとして受け止めるのではなく、状況に応じて柔軟に解釈でき、また技術革新や時代の潮流に応じて見直すことができる動的なものとして受け止めた上で理論的・比較的・政策的に深く学ぶことによって、法知識を豊かで確実なものとし、かつリーガルマインド(法的思考力)の基礎を培うこともできる。このことは受験生や専門家のみならず、一般の企業人や行政官にとっても有益なことと考える。

AI、IoT、ビッグデータに代表される第4次産業革命の時代において、ビジネス上知的財産の役割はますます重要なものになっている。また前例のない複雑な知財問題も増えている。このため、知財に関する仕事に携わる人々には、知的財産法についての深い知識と応用力とともに、複雑に絡む利害を公正・的確に調整する上で必要なリーガルマインドを身につけておくことが今まで以上に強く求められる。知的財産法を「法学」として深く学ぶことの今日的意義はここにある。



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